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2012年1月5日木曜日

Marvirinstrato: 不思議な町の不思議な物語

"Marvirinstrato" (Originalaj Noveloj en Esperanto), verkita de Tim Westover (2009).
昨年の12月4日に作者のウェブサイトからダウンロードして読書開始。本日読了。

気のきいた文体で読書を楽しむことができた。本書の題 "Marvirinstrato(『人魚町』)"が暗示するように、収録された18編の短編はいずれも童話風の物語。舞台となるのは私たちの住んでいる町とよく似ているがどこかずれた不思議な町である。

一番気に入った作品は"Orfiŝeto kaj la Glacia Monto"。川を旅する金魚が猛暑の荒れ地で一人の男に出会う。王様の命令で極北の海に氷を採りにいくというその男に連れてもらい、金魚の冒険が始まる。苦労の末ようやく王様のもとに帰還するが、苦労して運んできた氷塊は道中の暑さのため今や小さなかけらになっていた。さて、その氷のかけらをどうするのか? 意外な結末が心にしみて、とてもよかった。

"Tri ruĝaj knabinoj"は、定冠詞 la をエスペラントに採用することを決定づけたザメンホフの逸話から表題をとったものと思われる。隣家に越してきた謎めいた三人の少女たちに惹かれる三人の少年たち。主人公の少年は少女たちの気を引こうとして次第に危険を冒すようになっていく。前半の展開の期待感に比べて、後半の展開と結末が物足りないのが少し残念なところ。

"El la Taglibro pri la Okcidenta Vojaĝo"は秘境の地を旅する探検家の物語。現地語で「氷の川」と名づけられた川に遭遇する。氷などあるはずもない温暖な土地でどうしてそんな名前がついたのか? ガイドの説明では "lunulino"(junulinoではない)が水浴びをするからだという。ガイドの案内で川に沿ってさかのぼった探検家は不思議な光景を目にする。

"Antaŭparolo al la Plena Verkaro de Yvette Swithmoor"は架空のエスペランチストの著作集への前書き。エスペランチストやエスペラント運動への皮肉も織り交ぜて、胡椒の利いた小品。エスペラント界を知る人にはにやりとさせられる個所があちこちにちりばめてあり、楽しむことができる。

随所に気のきいた表現が見られ、よどみない文章は作者のエスペラント使いの力量を感じさせる。ただ作品としての詰めが甘く感じられる部分がいくつかあり、残念なところ。"Parodibirdo"や"Labirintoj"は展開がやや冗長な印象を受けた。

いずれにせよ、エスペラント原作作品としては水準を上回っており、読んでみて損はないと思う。

私的総合評価:★★★★☆(星4つ)