2012年1月16日月曜日

La Ŝtona Urbo: 女性の眼から見た歴史小説

Historia romano と銘打っているがいわゆる英雄や偉人は登場しない。主人公は、紀元1世紀の初めのイギリス南部に生まれたケルト人の少女。ローマ軍の侵攻により捕虜となり、ローマに強制連行され、奴隷として売られる。歴史的事件が直接語られることはないが、物語の背景として主人公の眼を通してしっかりと描かれている。

この物語を読み始めたきっかけはKindle(電子書籍リーダー)を買ったことだ。FEL(Flandra Esperanto-Ligo)のサイトに電子書籍の販売コーナーがあり、mobi形式とePub形式で試し読みができるようになっている。作者のAnna Löwensteinの評判は前から聞いていて、読みやすくてしかも生き生きとした描写が得意とのことだったので、"La Ŝtona Urbo"を選んでみた。

第1章は、ケルト人の数家族が集まって暮らす住居に、村から村へ渡りながら物語を話して聞かせる語り部がやって来るところから始まる。読者である自分は古代ケルトの暮しがどういうものか全く知らないので、最初のうちはとまどったが、物語の展開に従い情景描写を追っていくうちに彼らの暮らしぶりや考え方を理解することができ、自然と物語の世界になじんでいった。また要所要所に新たな展開が待ち受けており、読者として飽きることがない。これは何よりも作者のていねいな描写力とすぐれた構想のたまものだと思う。

主人公の少女は婚約者の家族との交流を通じて次第に新しい生活を夢見るようになる。第2章に入るとローマの不穏な動きがケルトの村々に伝えられるが、そのような中でも人々の日々の暮しは続いていく。穀物が豊かな実りを見せ始めた秋、ローマの大軍が突如海を渡って攻め寄せてきた。戦闘は遠く離れた地域で始まったが、ローマ軍は各地でケルトの部族軍を打ち破り、徐々に少女の暮らす村に近づいてくる。村人たちは防塁を築き、寄り集まって攻撃に備える。

読んでいて飽きることがない。この先何が起きるのかが気になって次々とページを繰っていく(電子書籍リーダーで読んでいるので、正確にはボタンを押すのだが...)。エスペラントの本をこれほどはまって読んだのは、Julio Baghyの"Viktimoj / Sur Sanga Tero"以来だと思う。

サンプル版なので読むことができるのは全8章のうちの第3章まで。ローマ軍に敗れて捕虜になった主人公の少女が船に乗せられ、生まれて初めて海を渡り、ローマをその眼で見る。表題の"La Ŝtona Urbo"とは彼女から見たローマのこと。彼女は奴隷として売られ、ローマ郊外にある貴族の別荘での生活が始まる。言葉も全く通じない異国の地でどんな運命が彼女を待っているのか。

ここまで読んでやめるわけにはいかないので、FELのオンラインショップで正規版を購入した。詳細は省くが、第4章以降も期待を裏切らない波瀾万丈の面白さだった。

全巻を読み終えた後で、少し歴史を調べてみた。
*紀元前55年、54年、シーザーによるブリタニア遠征
*紀元40年、カリギュラ帝によるブリタニア遠征(直前に中止)
*紀元43年、クラディウス帝によるブリタニア遠征 ←主人公捕虜となる
*紀元64年、ローマの大火、皇帝ネロによるキリスト教徒迫害 ←最終章

これらの史実が物語の展開の上で重要な役割を果たしているのだが、私自身はほとんど知らないことだった。歴史を知らなくてもこの小説は十分に楽しめる。それは間違いない。ぜひお薦めしたい一冊。

私的総合評価:★★★★★ (星五つ)

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